部屋の防音

本資料は、1995年ごろ作成の資料です。 内容が古いのでご注意ください。

部屋の防音について

立花 茂生

楽器から発生する音は近隣への騒音として十分配慮をしなければならい問題です。

皆様の中には、ご近所への騒音に対する気兼ねなく邦楽を楽しみたいと考えていらしゃる方も多いと思います。

私は尺八を帰宅後に練習していますが、自宅(マンション)での練習は夜9時までが限度で、演奏会が近づいてきた時などは、あと1~2時間できればと思っていました。又、ご近所からのクレームがこないか気になることもありましたので、思い切って一室を音楽室にしました。施工にあたって、夜12時ぐらいまで尺八を練習できる条件で10社ほどから簡単な見積もりをとりました。工事の内容も色々で興味深いものでしたので防音の一般知識を含め紹介します。

防音と邦楽器

(1)空気伝搬音と固体伝搬音

音の伝搬には、空気を媒体として伝搬する空気伝搬音と壁などを伝搬する固体伝搬音があります。尺八等の楽器や人間の声は主に空気伝搬音で、空気や隣家との境にある壁や窓を経由して伝搬します。一方の固体伝搬音は、上階で子供が走った時に発生する騒音等で、直接建物の躯体が振動して周囲伝わり防音が難しいものです。箏や締太鼓等ではこの固体伝搬音についても十分考慮する必要があります。

(2)楽器の音圧と防音

音の大きさは、デシベル(dB)と言う単位で表され、人の話声は約50dB、テレビの音は約30~60dB、静かな場所でも約20~30dBの暗騒音があります。楽器では、ピアノの音が80~100dB程度、尺八は実測したところ図1の様に平均60~90dB(約1.5mから測定)を示しました。専門家から、平均音圧は低いが大甲の音では100dBを越える場合もあり、防音対策を甘くみてはいけない旨の指摘を受けました。

部屋の遮音性能として、D30といった尺度が使われています。D30は500HZの音(おおむね尺八2尺1寸管の甲のロの高さ)で30dBの遮音性能を持っていることを示しています。10dBの遮音性能とは半分の音量になることで、20dBの遮音をするには10dBの壁の4倍もの厚さ必要になります。

防音の要素には、他に吸音があります。音をどどのくらい吸収するか(反射しないか)を示したもので、この吸音を大きくとれば防音効果もあがりますが、音楽室としての響とのバランスを考慮する必要があります。尺八や笛はある程度ライブであることが好まれるので吸音率を0.2程度にし、三味線や鳴り物ではより吸音処理します。

防音工事の実際

部屋の防音には、窓を2重窓にする簡単な防音から部屋全体を防音する本格的なものまで各種あります。

開口部である窓は部屋の中で遮音性能の悪いところで、普通の窓で約20dB、2重窓で30dB程度の遮音性能しかでません。一般のマンション界壁は、40~50dB程度の性能があるので、窓の防音をすることによってある程度の防音効果を期待することができます。

「深夜練習」や「長時間の教授活動」を行う場合、より高度な防音を行う必要があります。部屋の一部を防音しても別の場所から側路伝搬することがある為、部屋全体を防音します。防音効果の高い方法として躯体構造から振動的に完全に独立した床、壁、天井を作る浮き構造の工法がとられます。

簡便な防音室としては、楽器メーカ等から風呂のユニットの様に箱になっているユニット式のものが発売されています。大きさも1畳程の小型のものから8畳ぐらいまであり、防音性能が高い(単体D30~D40)・工期が短い(数日)・賃貸し住宅でも設置や移設もできる等の特長があります。

反面、既製の寸法で部屋が狭なる、梁や柱がでている部屋だと設置不可能ないし高価になったりします。

在来工法は、「尺八なら空気伝搬の遮音を優先に考える」、「隣家との界壁の防音を優先にする」等対象にあわせた設計や、部屋に合わせた工法がとれるので部屋の広さを確保することができます。おおざっぱに、床、天井、壁が5cm~20cm厚くなり、工期は6畳で2週間程かかります。私の部屋は梁の多いこともあり、在来工法で浮き構造の防音室を作りました。出来上がりの広さは、約6.5畳が5.5畳に天井高が2.6mが2.4m弱に下がりました。図2は床の部分の写真です。

防音の効果

防音工事の結果、窓の近辺に立つとわずかに音が聞こえ、3m程離れるとほとんど聞こえなくなりました。わずかな音漏れはありますが、実用上差し支えない程度となりました。しかし、深夜には隣家でもわずかに聞こえますのである程度の配慮が必要の様です。騒音の問題は不都合を受ける方の心理状態にも大きく左右されるもので、どの程度防音すればよいかはどの程度安心を求めるかということになりそうです。

予算の関係で室内の響きについて調音処理をしませんでしたが、響きはカーテンで調整するようにしました。少し不満な点として、室内に低音がこもることがあります。 業者の説明によると低音を遮音した為とのことで、防音室にオーディオを設置する時はスピーカを床に直接置かない等の工夫が必要とのことです。

防音の費用

今回の施工でとった見積もりの平均的費用を表1に示します。防音工事は設計・施工のノウハウが重要で、中途半端な工事で性能がでないと言われています。 防音を検討される方は、経験豊かな業者に相談することをお勧めします。