NHKオーディションガイド

NHK邦楽オーディションガイド

NHK邦楽オーディションは、NHKが邦楽演奏者に演奏(放送)の機会をあたえてくれるうれしい制度です。受験そのものは無料ですので、邦楽コンクールと比較すると受験しやすいと思います。合格するとNHKFMであなたの演奏が全国放送されます。また、わずかですが放送料も手にすることができます。放送されることも、演奏家をめざす者にとってすばらしいことですが、NHKオーディション合格は本人の力量を表わす1つの経歴として、多くの演奏家が経歴に「NHKオーディション合格」と記しています。

このガイドは、これからNHKオーディション受験をする方(特に、尺八や琴)の為にまとめてみました。本来、私のような者がまとめるには力量不足ですが、私や友人の経験、各種の本に紹介された内容を基にFAQとして書き記しました。独断と偏見がまじっていますのであくまでも参考として読んでください。他に参考になるものとして、邦J(93年6月号)に特集記事があります。尚、誤りや意見、あるいはこれ以外の情報がありましたらTACまでメールお願いいたします。

(1) 邦楽オーディションは何時、どこで受験できますか?

東京の場合 原則 4月、7月、10月、2月の第3土曜日(たぶん)です。 大阪でのオーディションもあります。受験料は無料で、受験資格も年齢制限などは特にありません。

受験場所は渋谷の駅から代々木方面に歩いて10分ほどの所のNHK放送センターです。実際の審査は放送センター内の5Fの509スタジオ(正面玄関は4Fなので1F上)というかなり大きなスタジオでおこないます。509スタジオは響きも結構あって演奏のしやすい場所です(もっとも緊張のあまり体感できる人は少ないと思いますが)。放送センターには駐車場もあります。

(2)どの様な曲で受験できますか?

古典でも、現代音楽でも可能です。また、ソロでも、アンサンブルでもかまいません。アンサンブルの場合は受験者か助演者かを一人一人指定することができます。受験票には4人分が記入できますが、多い場合は裏に記入とありますので、もう少し多い人数でも可能な様です。ただし、曲については十分な吟味が必要です。過度に難しくない、自分の実力に相応した曲で、見せ場があるものを選んでください。審査結果の発表のときに、「難しいを選曲した」とか、「もっと難しい曲をすれば良かったと」いわれる人がいます。

(3)申込み方法は?

ジャンル(楽器)、曲名、氏名、年齢、住所、電話番号、経歴、受験日を官製葉書に記入してNHK放送センター、邦楽オーディション係に申し込みます。定員に達すると受験できない場合もある様なので早めに申し込みをしてください。受験日や要綱が変わる場合もあるので必ず申し込み前にNHKに確認する。受験日の約2週間前に受験案内と参加票(参加票の受験番号が演奏順の番号)が届きます。

連絡先は 〒150-8001 渋谷区神南2-2-1 NHK放送センター

邦楽オーディション係 TEL:(03)3465-1111

(4) どんな準備が必要ですか?

楽器、立奏台、助演者、譜面台を持参します。尚、当日申し出をすれば譜面台はNHKのマークの入ったものを貸してくれます。

飲食に関しては、同じ5Fに社員食堂ありますので受験する人も利用可能です。また、通路には自動給茶機と冷水機があります。弁当を持ち込むこともできますが、通路のソファーは特定の場所以外では飲食禁止(係りの人に怒られます。 指定の飲食できるコーナを利用してください)

また、スタジオ内にも冷水ポットとコップの準備があります。

(5) 練習することはできますか?

受付は12時からとの案内でありますが、スタジオは午前中から空いています。早い人は10時過ぎから来て練習しています。スタジオ内で13時まで練習可能です。また通路で練習している人もいます。

(6) どのような受験者がいますか?

毎回20組~30組弱が参加し、大半が尺八と琴です。

プロもいるし、アマチュアの腕自慢もいます。 受験回数が2桁に達する人や、先生に3年がかりで合格するつもりで受験しなさいと言われてきている人もいました。過保護なようですが、先生同伴の人がいたり、助演にトッププロを伴って受験する人もいます。

何度かかけて合格する気持ちで受験すればよいと思います。

(7) 調絃する場所はありますか?

各自適当な場所で行なっています。たいていの人はうるさいスタジオの中をさけ通路で調絃を行っているようです。

(8) オーディションのスケジュールはどのようになっていますか

12時~12時半 受付 受験票を提出。

(立奏、座奏の別、名前の読み方等を答える。)

~13時 調絃等の準備

13時 説明

13時過ぎ~約14時 受験番号前半の人のオーディション

演奏順は、ほぼ三味線、尺八、筝、琵琶、小唄端唄の順。

受験者はスタジオ内のパイプ椅子に座って待ちます。

休憩約15分

14時過ぎ~約15時 後半の人のオーディション

15時過ぎ 講評と結果発表

(9) オーディション中に出入りは可能ですか?

演奏中でなければ可能です。(再入場する場合は放送中のランプに注意)

トイレはスタジオの近くにウオッシュレット付きのトイレがあります。調絃等の為にスタジオ外にいることも可(たんに外でさぼっていてもよい)

(10) 演奏はイスでもできますか?

座奏、立奏(いす、立つ)どちらも可能。譜面台の使用ももちろん可能です。採点は、別室の調整室で行うので審査者にはどの形態で演奏しているかわからないので評価への影響はないと思います。マイクを使用しているので音の差もありません。服装も特に関係ありません。

(11) どの様に審査するのでしょうか?

外部3人(例:長沢勝俊、山岡知博、竹内道敬)、とNHKチーフディレクタ3人の計6人の審査で行います。 審査はマイクを通し、調整室で審査。各審査員持点4点で20点以上ぐらいで合格といううわさもあります。

(12) どのようにして演奏するのでしょうか?

受験番号順におこないます。 どうぞといわれたら、受験番号、楽器、氏名、曲目を言って演奏します。演奏時間は人によって異なりますが、概ね約4分程度演奏したところでで終了してくださいとの指示があります。基本は、演奏を聞いて合否の判断ができれば終了だそうです。曲によっては、ゆっくりとしたところだけでは評価ができないとのことで、途中から早い場所を演奏するように指示をされる場合があります。古典の場合は、2分ぐらいで切り上げて、あとは手事を演奏するようにあらかじめ決めておくのもよいと思います。別に4分間できれいに終了する必要はありません。

(13) 審査発表はどのようなものですか?

全受験者の演奏が終わると15分ほどの休憩の後、審査発表となります。最初に審査員を代表して(私が知る限りすべて山岡氏)、各演奏の講評を行います。NHKオーディションが始まった時からのしきたりだそうですが、受験者の実力は伯仲していて合否の差がわずかであること、放送するという立場からの審査であることが前口上として述べられます。

講評はかなり細かい点まで指摘され、講評でだいたいの合否がわかります。「全体としては良い演奏だった」等と誉められた人は合格。「次回挑戦してください」はおしい人。

あまり誉められなくても合格の場合もあるのでこの時点でがっかりしないこと。講評が終わるといよいよ発表。合格者数があらかじめ決まっているわけでないので、毎回合格者数が違う(去年は多かったそうだ)様だが、大体4組ぐらい?。受験者数で割ると2割ぐらい。結構狭き門です。

(14) 合格した場合はどのようにスケジュールになりますか?

引き続き、509スタジオで録音になります(別のスタジオの場合もあるようです)。録音順は、地方の方を優先。場合によっては別の日になる方もあるようです。録音時間については放送の都合でなるべく短く(10分以内)にしてほしいといわれます。原則は一回のオーディションで合格した人は同じ番組(30分)で放送するそうです。短くできないと言えばすみますが、長い場合は演奏日が遅くなる可能性もあるということを言われます。10分で終わるようなカットも事前に考えておく方がよいかもしれません。録音方法は、マイクを近くに2本(演奏者毎)、遠くに2本(全体)を設定します。マイクの設定中は疲れない程度にリハーサルをする。録音はオープンテープの場合とDATの場合がある様です。間違えた場合は、取り直しもしてくれます。人によっては一時間ぐらいかけて録音する場合もあります。放送にあたって、芸名を使うか本名を使うかはこの時点で伝えておきます。それから曲名ですがアナウンサが間違えて読むこともありますので、場合によってはよみがなも伝えておいた方がよいかもしれません。

(こないだ、上無をジョームと読んでしました)

NHK-FM 今日の邦楽の第5木曜日が邦楽オーディション合格者の放送日。録音した時には、放送日は分かりません。合格者が結構多くて、半年ぐらい先になることが普通ようです。放送の1~2週間前ぐらいに電話で放送日の連絡があります。また、週間FMに演奏者の名前が掲載されているそうです(確認はしていませんが、週間FMに私の名前があったとの連絡をいただいたことがありました)。放送されると郵便為替で出演料が郵送されます。

尚、合格した人は、1年間はNHK邦楽オーディションの受験はできません。

(15) 合格書はでますか?

残念ですが、とくに合格書はでません。証拠が残るのは、出演料の払い込みの封筒ぐらいでしょうか。それから、録音した演奏のテープももらえません。各自、放送時にエアーチェックするしかないようです。

(16) オーディションのレベルについて

NHK育成会や東京芸術大学の入学よりはかなり難しいと思ってください。熊本や賢順のコンクールと比較すると、コンクール優勝者はすでにオーディションをとっている人が多く、予選通過者でオーディションを合格している人もいますし、逆に落ちたという人もいます。おおざっぱに言うと、オーディションはコンクールの予選通過と同じか若干難しい、コンクール入賞よりも易しい。といったレベルだと思います。朝日現代音楽コンクールなどは、予選もかなりハイレベルです。逆に私が以前受けたブリーズリサイタルオーディションは、NHKより簡単だと思います。

都山流の方だと、都山流本曲コンクールの優勝者が次のステップとして挑戦する人が結構いるようです。流報などに体験記が掲載されたりします。

(17) どんな練習をすれば合格できるか?

審査講評を聞いて私の感じたことを述べます。

マイクを通しての演奏は、舞台の演奏とかなり違います。舞台だとエネルギッシュな演奏や情熱が伝わり、細かい技術の優劣はあまり気になりません。スタジオの場合、微妙なニュアンスが自分の耳で聞こえている以上に(拡大されて)聞こえます。普段あまり気にしない息音や息継ぎの音、爪を当てる時の雑音なども大変気になる音になります(この指摘が結構多いと思います)。また、細かいテクニックをいい加減に演奏しているのもバレてしまいます。自分の実力で完全に演奏できる曲を選ぶのが無難です。難しい曲は審査の先生も難しい曲と認識をしてくれますが、ちゃんと演奏できないと減点されるようです。また、力強いフォルテシモや大きな音量は、舞台では映えますが、オーディションの場合、大きい音を出すために他の技術がおろそかになると粗雑な演奏と聞こえ減点される可能性もあると思います。ちゃんと演奏できれば問題ありませんが、そうでない場合は、前後の音量を加減しダイナミクスを確保する方がよいかもしれません。

音色についても結構指摘がありますので邦楽らしい美しい響きが必要なようです。尺八などでは甲の音の響きが悪いなどの指摘されている人もいます。 ただし、軽微なミスについてはある程度は考慮してくれるみたいです。

気難しいことを書きましたが、逆に有利な面もあります。尺八を例にとれば、舞台ではほとんど聞こえない1孔を打つ微妙な音などもきれいに効果的に表現できるし、軽いスリも生きてきます。かなりしぼったpppも使えるし、fzも舞台以上に効きます。

この前提のもとで音楽的な演奏ができると合格ということになります。

練習の方法としては、まず暗譜できるまで練習する。良質のマイクを用意し自分の演奏を録音してみる。録音を聞いてテクニックの細部までチェックしたらどうでしょうか?